プラトニッククラウド

昨日の事を言うと、鬼が寂しげに微笑む。

14. ミラーボールと象

『夜象』というオールナイトライブに来ている。これが初めてだ。まだ開演まで時間があるので少し書こうと思う。
23時を過ぎた電車が渋谷へと向かう。この時間帯に上り線を使う人にテンプレートはない。数は少ないが、それぞれの目的をうっすらと感じる。夜の渋谷は何度も歩いた。あまり好きになれる街ではない。整理番号順に通されたLOFT9は、小さなミラーボールが絶えず回り、鋭い反射光を騒めく観客に投げかけている。4秒に一度くらいのペースで眼に入る虹色の光は、目を落としたスマホの画面にも残像として鮮烈に残る。音楽はジャズのようだが、どことなくアジア風のアレンジがなされている。テーブルのある席も多いが、私の座る席にはなく、飲み物を置くところもない。
会場の右手側面には書架がある。じっくりとラインナップを見たいが、ライブ前の雰囲気がそれを拒む。横目で数冊の名前を記憶しつつ、その前を通り過ぎる。BGMが小さくなる。『夜象』が動き出そうとしている。