プラトニッククラウド

昨日の事を言うと、鬼が寂しげに微笑む。

26. 教養と一編

教養学部生としては最後のテストを今日終えた。次の試験は、経済学徒として受けることになろう。

1年半の教養学部で、私は教養を身につけたと言うほどの自信は持ち合わせていない。色々な学問の末端を選り好みして齧るような享楽に甘んじていただけだ。一番簡単なフランス語の文が書けたり、二重スリット実験の意義が分かったことが何になろうか。シュレーディンガーの猫への無理解にモヤモヤするようになったことくらいしか、今のところ現実に影響はない。

最後に受けた試験は漢詩だった。お世話になった教授に一礼して教室を出ると、そうは言ってもどこか胸打つものがあった。何も修めてはいないのに、何かが終わったという実感だけが残った。元・教養学部生として、今日のために覚えた漢詩の一編くらいは胸に留めておこうと、密かに決意した。