プラトニッククラウド

昨日の事を言うと、鬼が寂しげに微笑む。

1. 猫とアンカー

風呂から上がって自分の体を見ると、たいてい胸のあたりに猫にひっかかれたような三本線の傷が付いている。

予想はつく。恐らく、自分で無意識のうちに掻いている。小さい頃から、自分の体のどこかをいつのまにか掻いていることがある。

そもそも痒みが苦手だ。饅頭より怖い。ときどき、途轍もない痒みに襲われることがある。そしてそれが来るのはいつも身動きが取れない時だ。体の表面部に痒みがあるうちは良いが、体の内側に痒みが潜り込んだ時が一番の地獄である。どこを掻いても痒みは取れない。そういうときはその痒みに最も近いところから、船がアンカーを下ろすように静かに掻く。あくまで対症療法だ。そして、心を沈潜させる。安息を待つ。